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砂の城 2017年8月5日(土)の築城レポート

“キレイなおねえさん”が飛び入り

 「ノロノロ台風」と呼ばれ、九州の南方海上を半月近くもうろついていた台風5号の影響で、8月に入ると不安定な天気が続いていた。連日、空が曇っているので、逆に、日焼けの心配をせず築城作業にいそしめるのではないかと期待された。
 だが、当日、8月5日の土曜日は、多少雲はあるものの、切れ目から強い日差しが降り注ぐ状態で、「今年もビーチパラソル借りなきゃな〜」などと思いつつ、海岸へ向かう笠井であった。早めに到着したので、築城の適地を探していたところ、ちょっとまずいことに気付いた。海水浴客が来る前に、耕運機のような大型車両が入り、海岸整備のために砂浜を掘り返していたのだ。そのため、当日早朝の満潮時に、波がどこまで到達したかがわからなくなってしまい、築城の位置決めが困難になっていた。
 12時少し前、例によって幸山副会長が先着、続いてヤッちゃん安田が到着した。うれしいことに幸山副会長は大きめのテントを持参。早速3人で組み立て、直射日光を避けて昼食をパクつき始めた。と、その時、「砂の城の方ですか?」と若い女性が声をかけてきた。「サイトを見て来たんですが、参加させていただけますか?」。もちろんOK。互いの紹介などしているところに、トシモトがひとりでふらりとやって来た。妻のタカヨちゃんは用事があり、「トシモト社中」のイッサイ綿貫はといえば、まだ惰眠をむさぼっているとのこと。そうこうしているうちに、社中のもうひとり・ミキサー山田と、パタ先生&野田ちゃんのイラストレーターコンビが到着した。コンビのふたりは、乗り換えの藤沢駅で、反対方向の電車に乗ってしまったとか。お疲れさま。

激しく打つ男、しっかり踏む女

 予定メンバーの多くが集まったことから、やおら作業を開始。まずはトシモト社中に力仕事を担ってもらう。山を盛り上げ、水をかけ、一同で踏み固める。てっぺんの「土羽(どは)打ち」は、トシモトの独り舞台。複雑家庭「ナガイ家」において、無慮20年間蓄積されてきた怨念のマグマが、ここぞとばかりに炸裂する。力強く土羽を打っては踏み固め、海水をかけては土羽を打つ。「雨降って地固まる」ならぬ「海水降って砂固まる」という結果をもたらした。
 さて、砂の踏み固めは、やたら蹴りつければいいというものではない。上部から、足裏を真横にして、等間隔できちんと蹴り下げていけば、きれいな横縞状の踏み跡が残る。これが構造的にも優れているのだが、いまだに、理解の及ばないメンバーが散見されるのは嘆かわしい。その点、一昨年初参加したトシモトの妻・タカヨちゃんは呑み込みが早く、初日から整った踏み跡を残していたが、本日の飛び入り娘・坂本カオリちゃんもスジが良く、側面をしっかり踏み固めていたのに感心した。
 そんなところに、子連れの女性が現れた。ヤッチャンの知人・松尾ユカさんだ。あるイベントで隣り合わせ、砂の城の話をしたら盛り上がって、勇躍参加してくれたという。伴っていたリンちゃんという女の子は、ユカさんの子どもではなく、勤めているお店の店長の娘さんだという。
 さらに、もうひとり子連れの女性がやって来た。一昨年、大手出版社の子ども向け雑誌に、砂の城のつくり方を教える記事が掲載されたとき(当サイト『児童向け雑誌で砂の城…』を参照)、企画・編集を担当していた笠井直子さんだ(偶然にも会長と同姓)。我が子に城づくりを見せたくて参加したとのこと。

綿貫のアイデアから生まれた斬新なテルマエ

 今年の城の基本構想は、四角い土台を3層に重ね、フラットな最上層に、小さめのタワーと、切妻屋根の小ぶりな建物を密集させるというもの。最大の特徴は、左側面につくり込む2段構えの“テルマエ”だろう。実はこのプラン、先月、伊豆白浜で行われた「ピンクダイナマイツ・バスケットボールクラブ(笠井が副会長を務める)」の夏合宿(という名の呑み会)において、余暇の小手調べに小さな城をつくった際、参加していたトシモト社中のイッサイ綿貫が、ひとりコツコツ削り出した“テルマエ”にヒントがあった。テルマエといえばパタ先生&野田ちゃんの独擅場(どくせんじょう)だが、この綿貫プランには、ひと味違ったクリエイティビティがあり、感心した笠井が、早速、ここに取り入れたのだった。
 土台ができたので、メインタワーに取りかかるが、バケツによる型どりがうまくいかず、崩れてしまう。去年もそうだったが、江の島海岸の砂の質が変わってきたような気がする。そういえば、かつて伊豆白浜の砂の質も大きく変わったことがあった。浜辺の砂も、時が過ぎゆくにつれて、移ろっていくものなのだろう。だが、そんな感慨にふけってばかりもいられず、小ぶりのタワーに切り替えて、どうにか格好をつけることができた。ただ、笠井がタワーの屋根のてっぺんをとがらせていたとき、手元が狂ったのか、砂がもろかったのか、ポロっと崩れ落ちてしまった。仕方なく上部をフラットに削り、チェスのルーク(城)の駒のような形にして、辛くもしのいだ(のちにミキサー山田が修復し、とがった屋根を取り戻した)。
 上層の切妻屋根の小さな建物は、ミキサー山田、ヤッちゃん安田、野田ちゃん、飛び入りのカオリちゃんが各自の好みの形につくった。また、奥のほうにある、兵営を思わせる大きめの切妻屋根の建物は、パタ先生が手掛け、さすがの出来栄えとなった。
 正面の階段づくりはトシモトが担当。当初はひどく幅広の階段にしていたが、バランスの悪さに気付き、幅を狭めたので、まずまずの形に落ち着いた。

有望な兄弟が「できちゃった参加」

 さて、今年のハイライト、左側面のテルマエは、パタ先生、ミキサー山田が中心になってつくり始めた。本来ならイッサイ綿貫が担当するところなのだが、いっこうに姿を見せない。野田ちゃんやヤッちゃんも手伝い、プラン通りの素敵な形になっていった。
 この頃、ふたりの子どもたちは、台風の影響でいつもより大きい波に乗るのが面白いらしく、なかなか上がってこない。ユカさんと笠井直子さんは、波打ち際で心配そうに見守っている。「もう少し、お城に興味を持ってもらいたかったけれど、あんなに楽しそうに笑っているのは見たことがないので、ま、いいか…」と直子さんは苦笑い。
 右の側面と後方は、階段をつくり終えたトシモトと、手の空いたヤッちゃん、カオリちゃんが、粗削りの階段状になった城壁と、巨大な池か、テルマエか、はたまたコロッセウムか、よくわからないものをつくり上げた。
 ほぼ完成に近づき、仕上げにかかろうかというときになって、ようやくイッサイ綿貫が現れた。「“綿貫プラン”を取り入れたテルマエなんだから、本人に担当してもらおうと思っていたのに、もう、終わっちゃったよ」と口をとがらす笠井に、肩をすくめてニヤニヤするだけの綿貫。いつもながら“つかみどころのない男”ではある。
 綿貫に少し遅れて、トシモトの大学の同級生・安藤唯(ゆい)と、弟の開(かい)がやって来た。「できちゃった参加」ではあるが、弟の開は陶芸をやっているそうで、砂の城に興味しんしんという。兄弟は、早速、5mばかり離れたところに支城をつくり始めた。砂の城の基本は削り出すことなのだが、経験がないと、どうしても積み上げてしまう。そのため、ボコボコっとした印象の城になってしまったが、取り組み方が非常に真摯だったので、来年も参加してくれれば、きっと貴重な戦力になってくれるだろうと、頼もしく思った。

“崩落”はついに訪れず

 細部に仕上げをほどこし、風上から乾いた白い砂をたっぷり浴びせる。これは笠井が考案した“時代がけ”という隠し技で、年月を経た古城のような味わいが深まるのだ。
 各人、思い思いの角度から写真を撮り、通りがかりの人に集合写真のシャッターを押してもらうなどするうちに、波が近づいてくる。実は1時間ほど前に、かなり迫ってきたことがあり、トシモトがあわてて防波堤を築いたりもしていたのだが、なぜか、そこからの進捗がなく、一進一退という状態になっていた。それでも夕刻になって、さすがに城の足元まで寄せる波も出てきたので、劇的な崩壊シーンが見られるかと期待された。
 5分に1回くらいは大きな波がやって来て、城の土台がわずかに洗い流される。だが、それを超えるほどの波が来ない。時間はどんどん過ぎていく。子連れのユカさんと笠井直子さんは、当然ながら「お先に失礼」。次の呑み会があるという安藤ブラザースと、遠路はるばるのヤッちゃんも帰路につき、次第にさみしくなってきた。
 「ここまでかな」と会長&副会長が決断。テントをたたみ、道具を洗い、ゴミをまとめて撤収の準備にかかる。整備のために砂浜が掘り返され、波の最高到達点がわからなくなったことから、築城位置の判断を誤ってしまったが、これは仕方がなかったのではないだろうか。「もう1m前へ!」と思ってはいるのだが、その1mを決断するのに、どれだけの勇気を要することか。「たかが砂の城、されど砂の城」なのである。
 打ち上げは「きむらや」とも思ったが、遠いし、疲れているし、予約もしていないので、おなじみ駅前「ねこん家」の、奥の板の間に上がり込んだ。
 楽しく呑んで話がはずむうちに、どこから見ても健康的な美人さんである飛び入り娘のカオリちゃんが、実は、昆虫や爬虫類・両生類を好んで食べる“虫めずる姫”というか“虫食べる姫”であることが判明。すると、“つかみどころのない男”イッサイ綿貫が、突然のように色めきたった。綿貫もまた、気持ちの悪いものを好んで食う「奇食の人」であったのだ。バッタを食ったの、サソリを食ったの、わけのわからない話が広がっていくうちに、今年の城づくりは幕を閉じたのだった。
 なお、後日、トシモト社中の3人とカオリちゃんは、新宿あたりに呑みに行き、また奇食の話で大いに盛り上がったと聞く。ま、お好きなようにしてください。

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砂の城ムービー(撮影:Pata)
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17年メンバー

 

Text:N.Kasai

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